場所は渋川市赤木町棚下である。令和元年(2019)6月の豪雨によって滝までの遊歩道が全面通行止めになっていたが、復旧工事が完了し、令和2年8月1日に新たな遊歩道が開通した。このことが同日の新聞で報じられたので、早速見学に行った。 アクセスは関越自動車道の赤城ICで降り、一般道はカーナビの誘導に従う。駐車場は十分空いていた。実は以前は滝までの遊歩道は、川の右岸にあった。つまり不動尊の参道を通ってそのまま上って行けば雄滝に行けたのである。
しかし今度は左岸に新しい遊歩道を付け替えたのである。従って不動尊を先に参拝して引き返し、橋を渡って一気に滝を目指す。
滝の落ち口が見えた。岩壁は深く抉れて鍾乳洞のような趣があある。そこに潜り込むと滝はまさに裏見の滝そのものだ。
川の右岸へ行くと、奥の院がある。
奥の院から少し下って、正面から滝と滝壷を下から見上げる。
奥の院から先程登ってきた階段を下る。その途中、木の間越しに対岸に洞穴のようなものが見えた。今は廃道となった旧参道のトンネルと思われる。さらに降りると川の向うに不動堂が俯瞰できた。
下りきった遊歩道を右岸に廻りこむと、不動堂の境内だ。この中に不動尊が祀られている。
駐車場に戻る途中に、利根川を一望できる展望台がある。なかなかの絶景だ。展望台は一人しか立てない狭い窮屈な岩なので、交替で眺めることになる。
駐車場の一角に、巨大な不動明王の石像がある。右脇に解説の碑が立っている。要約すれば、東日本大震災のとき、不動の滝近くの断崖から巨岩が駐車場に落ちたのだそうだ。震度5強の揺れだったから、たまったものではない。幸い参道や駐車場には人がいなかったので人的被害は免れたという。 落ちた岩石は高さ約4m・横約5.5m・奥行き約6m、その後、岩石に彫られた不動明王像には鎮魂の思いがこめられている。「この岩石に不動明王を彫らせてくれないか」と棚下地区の人たちに提案した人がいた。 それは沼田市下沼田町で建設会社などを営む戸部和明さん(76)という人物である。戸部さんの会社は津波の被害を受けた岩手県山田町や野田村・陸前高田市で、ガレキの撤去や廃材の処理、壊れた建物の解体に携わった。 「震災で落ちてきた大岩、震災を忘れず、記憶にとどめておかなければいけない」と思ったという。戸部さんはもともと、不動明王を自らの「守り本尊」として信仰。毎月、不動尊にお参りしてきた。「戦争以外で1度に2万人も亡くなることはなかった。日本で初めての大きな原発事故も起きた」。岩が落ちてとどまった所は、事故を起こした東京電力の所有地だった。 彫ったのは、戸部さんの会社で石の彫刻などを担当する斎木松雲(59本名-日出次)さん。中之条町出身で高校卒業後、石材業が盛んな愛知県岡崎市で修行し、石の彫刻を学んだ。 これほど大きな岩の側面に立った状態で彫るのは初めてだ。「どう彫ればいいのか」。 「震災の犠牲者への鎮魂の思いを込めた。今は新型コロナウイルスで大変な時。お不動さんの力でコロナも退散させて欲しい」。斎木は、不動明王にそっと手を合わせたという。 完成までに2年の歳月を要したという。被災者に対する慰霊と、未来永劫の安寧を祈って刻まれたものである。令和元年(2019年)12月に建立された。
巨岩の背面はご覧の通り、落石した時の姿である。
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